大阪府立環境農林水産総合研究所

[農林][報道]温州ミカンのリアルな生産現場データを大規模解析 農薬や肥料の使用量削減で環境保全効果

公開日 2025年12月24日

理化学研究所(理研)環境資源科学研究センターホロビオント・レジリエンス研究チームの藤原風輝特別研究員、市橋泰範チームディレクター、福島大学農学群食農学類の二瓶直登教授、岡野夕香里准教授、髙田大輔准教授、東京大学大学院農学生命科学研究科の小林奈通子准教授、宮沢佳恵准教授、北海道大学大学院農学研究院の丸山隼人助教、信濃卓郎教授、大阪府立環境農林水産総合研究所の荒川竜太主任研究員らの共同研究グループは、日本各地の温州ミカン生産者のほ場から直接収集した「リアルワールドデータ[1]」を用いて、農薬や肥料の使い方の違いが、果樹園の土壌や微生物、果実の品質にどのような影響を与えているのかを、大規模なデータ解析によって調査しました。その結果、農薬や肥料の使用量削減が環境保全効果をもたらしうることなど、農業に関する重要な知見が実際の生産現場から得られました。

本成果は、先端技術と現場のデータを融合した研究アプローチを提案することで、持続可能な栽培技術の研究開発を推進すると期待されます。

今回、共同研究グループは、国内11府県の温州ミカン園から多数の果実と土壌サンプルを収集し、果実の品質、土壌の化学性(化学的性質)や元素組成、微生物叢(びせいぶつそう)といった多層のデータを抽出するマルチオミクス解析[2]を実施することで、栽培方法間の違いを多角的に比較しました。その結果、生産者のほ場において肥料や農薬の削減が土壌炭素量の増加のほか、重金属類の低減などの環境保全効果をもたらしうることや、農薬が果実表面の病害を抑える一方で土壌中の病原菌の割合を増やす可能性があることなど、温州ミカン園における農薬や肥料の使用方法と農業生態系[3]の関係に関する重要な知見を得ることができました。

本研究は、科学雑誌『Plant Biotechnology』12月25日号掲載に先立ちオンライン(12月10日付)で掲載されました。
 

  • 論文情報
    <タイトル>
    A Cohort Study of Sustainable Cultivation Methods in Mandarin Orange Orchards across Japan
    <著者名>
    Fuki Fujiwara, Yukari Okano, Daisuke Takata, Hayato Maruyama, Ryota Arakawa, Natsuko I Kobayashi, Kie Kumaishi, Megumi Narukawa, Yui Nose, Tsuyoshi Isawa, Takuro Shinano, Kae Miyazawa, Naoto Nihei, Yasunori Ichihashi
    <雑誌>
    Plant Biotechnology
    <DOI>
    10.5511/plantbiotechnology.25.0605a


温州ミカン園の果実と土壌のリアルワールドデータのイメージ
 

用語の解説

[1] リアルワールドデータ
医療分野でよく使われる用語で、病院での日常の臨床で得られる電子カルテなどの医療データを指し、臨床試験(治験)データと対比して用いられる。本研究では、実験室や実験ほ場ではなく、生産者のほ場から得られた農業データを指す。

[2] マルチオミクス解析
オミクス解析と呼ばれる個々のデータ解析技術を統合することで、自然界の階層構造を反映した多層のデータを抽出できる技術。本研究では、細菌叢や真菌叢を対象にしたマイクロバイオーム解析や、元素組成を対象にしたイオノーム解析を用いている。

[3] 農業生態系
農業活動の空間的および機能的な基本単位として定義される、生態系の一部。植物-微生物-土壌における生物性・化学性・物理性を含んだ要素により構成され、構成要素間にエネルギーや栄養分などのやり取りが生じることでシステムとして振る舞う。

 

添付資料

 

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