大阪府立環境農林水産総合研究所

 

[農林]世界で初めての報告!昆虫・アメリカミズアブでマダイを出荷サイズまで養殖

公開日 2024年11月27日

世界で初めての報告!昆虫・アメリカミズアブでマダイを出荷サイズまで養殖

 アメリカミズアブ※(以下、ミズアブ)は食品ロスなどを使って飼育できる昆虫で、世界的に畜産や魚類養殖の生産量が増える中、環境への負荷が少ない高タンパク質な餌素材として期待されています。

 環農水研が行った試験では、ミズアブ粉末を約5%混合したミズアブ餌でマダイを18か月にわたって飼育し、体重1kg以上(一般的に市場に出荷されるサイズ)まで成長させました。ミズアブ餌で飼育したマダイは通常の餌で飼育したマダイと同等もしくは良い成績で成長し、健康にも異常はみられませんでした。

 ミズアブ餌を使ってマダイを市場出荷サイズまで長期飼育した学術的な試験は、今回が世界で初めての報告となります。この試験は、持続的生産の可能なミズアブ餌が長期間のマダイ養殖に利用できた例として、SDGs(持続可能な開発目標)の目標14「海の豊かさを守ろう」の達成に向けた重要な成果と考えられます。

ミズアブの成虫と餌になる幼虫
ミズアブの成虫と餌になる幼虫
ミズアブ餌を与えたマダイ
ミズアブ餌を与えたマダイ
試験終了時のマダイの体重
試験終了時のマダイの体重

 なお、ミズアブ餌のマダイと通常餌のマダイが、味について差がないことも、人間による評価や機器分析で確かめられました。

 成果の一部は2024年10月30日に科学誌「日本水産学会誌」のオンライン版で公開されました。

 本研究は一般社団法人マリノフォーラム21が実施する養殖業成長産業化提案公募型実証事業(水産庁補助事業)の助成を受けています。

 

※アメリカミズアブ(ミズアブ)とは

 アメリカ大陸原産とされ、現在は日本の本州~沖縄を含めて世界中の温暖な地域に広く生息している昆虫です。アブという名前ですが、人間や家畜を刺したり、作物を食い荒らしたりすることはありません。

 ミズアブの幼虫は幅広い種類の有機物を食べて育ち、タンパク質や脂肪を体にため込みながら急激に成長します。この性質は、食品加工の際に出る残渣を高タンパク質な家畜飼料に変換するというリサイクル技術への利用が試みられてきました。すでに海外ではミズアブの商業的な生産が始まっています。

 環農水研では2013年頃からミズアブに注目し、ミズアブの飼育技術や餌素材としての品質を研究してきました。特に、ミズアブを魚粉に代わるタンパク質素材として使うための試験を行っています。魚粉は小魚を原料として作られ、養殖魚の成長に重要なタンパク質源として大量に使われています。しかし、魚粉需要が世界的に増加するなか、魚粉を海外からの輸入に頼っている日本では、国内で生産でき魚の成長も良好なタンパク質素材の開発が求められています。

今回の試験では、おから(豆腐粕)や野菜を与えて育てたミズアブの幼虫を粉末状に加工し、マダイ養殖の餌として利用しました。

ミズアブ幼虫飼育の様子
ミズアブ幼虫飼育の様子
魚粉とミズアブ粉末の成分比較
魚粉とミズアブ粉末の成分比較

今回のマダイ養殖試験について

 試験では、

魚粉とミズアブ粉末の成分比較
  • 魚粉を約50%含む通常のマダイ餌
  • その魚粉の一部をミズアブ粉末に置き換えた餌(ミズアブ粉末は餌全体の約5%)

を作製して、大型水槽中でマダイを飼育しました。

マダイの体重増加のグラフ
 18か月の試験期間中、ミズアブ餌で飼育したマダイの体サイズの増加や飼料効率は通常の餌と同等もしくはより良い値でした。また内臓や血液の検査を定期的に行って、健康状態に問題がみられないことも確認されました。

 さらに、体重1kg以上の市場出荷サイズまで成長したマダイで食味の評価も行いました。人間の感覚による評価・味覚センサー装置による評価の両方で、ミズアブ餌を与えたマダイは通常餌のマダイと遜色のない味という結果が得られました(今回発表した論文には掲載のないデータです)。

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