大阪府立環境農林水産総合研究所

 

大阪府水産試験場研究報告 第1号

大阪府水産試験場研究報告   第1号

全文(PDF 3.3MB)  目次(PDF 90.3KB)

 

  1. 42年夏期大阪湾東部海域の赤潮発生状況について
  2. 石油廃水の魚類に及ぼす影響調査(第2報)
  3. 大阪湾奥部における河川水の拡散係数を推定する一つの試み
  4. 大阪湾の水質、底質ならびに底生動物について
  5. 着油ノリの油除去ならびに油処理剤のノリに及ぼす影響試験
  6. 酸素補給剤の使用効果について

42年夏期大阪湾東部海域の赤潮発生状況について

城 久・林 凱夫
On the Red Tide in East Coast of Osaka Bay in Summer,1967
Hisashi Joh and Yoshio Hayashi

大阪水試研報(1):1~8,1969
Bull.OsakaPref.Fish.Exp.Stat.(1):1~8,1969

本文(PDF 675KB)

要約

  以上の調査結果を総合して考えると、大阪府地先海域において赤潮による直接的な被害 として報告されるものは貝塚市以南の中南部地先におけるものが殆んどである。これは 漁業形態の違いから中南部ではそれだけ地先漁場の操業度が高いことも一因であるが、 北部海域では赤潮プランクトンが低かんな水を好むSkeletonemaによることが多いため直 接被害をこうむることが少なくなっている。

中南部沿岸でもSkeletonemaは夏期優占種となっていることが多く、沿 岸域の薄い赤潮の構成要素となっているが、通常では塩素量が比較的高いこともあって 北部海域ほど濃密には発生していない。直接的な被害をともなう赤潮は普段これら硅藻中 に混在している Gymnodinium sp.、Peridinium sp.、Exuviaella sp. 等の有害プランクトンが海況の変化等によって急増殖するときに生じたおり、当該海域で は何らかの原因によってその増殖が北部海域より起こりやすい環境にあるものと考えられる。 したがって中南部海域の赤潮は珪藻類によるものと、鞭毛藻類によるものが並存しており、 断続的に長期間発生するようになったという漁業者の観察はこれら2つのタイプの赤潮を 同一視しているものと推察される。

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石油廃水の魚類に及ぼす影響調査(第2報)

城 久・林 凱夫
The Effect of the Petroleum Industrial Waste on the Fishes
Hisashi Joh and Yoshio Hayashi

大阪水試研報(1):9~16,1969
Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(1):9~16,1969

本文(PDF 498KB)

要約

今回の調査は前述のごとく40年1月から操業を開始したG石油工場の廃水を主体として 周辺海域での異臭魚発生の可能性について検討を加えたものである。

G石油の廃水は昼間の観測によると油分濃度8~13ppmでさほど大きな変化はなく、廃水 の異臭が確認できる濃度は原液の1%、0.09ppmであった。

また供試魚にマアジを用いて行った2回の着臭限界試験では排水濃度の 違いにより希釈率は100倍、200倍とことなったが、24時間、48時間後共その油分濃度0.04ppm で着臭することが確認された。

次に泉北港内外の8点に生簀を設置して行った着臭状況試験では48時間後に排水口前のSt.6と 共に排水口から約800m離れたSt.7での着臭が認められ、96時間後には港口に近いSt.8でもその 嫌疑がもたれた。しかし港外の地点では48時間後の設置結果では着臭するにいたっていない。 これらの結果から現在の操業規模においても泉北港内に滞留する魚には微かな着臭を与えている 模様であり、とりわけ冬期水温の高い港内では排水口の周辺に高水温と共に油臭を好んで集まる 魚群がみられることから港内では異臭魚が発生する危険性が大きい。したがってこれらの魚群の 回遊如何によっては港外でも異臭魚が漁獲される可能性があり、排水口周辺に集まった魚を目あ てに漁獲している漁船があることは異臭魚の問題を引き起こす恐れがあるといえよう。

石油工場廃水の底泥に及ぼす影響についてはG石油の精製能力が現在のところ日産6万バーレルと 比較的小規模であり、廃水量も少ないため、凌渫後の泉北港内の底質にほとんど影響を及ぼすに いたっておらず湾内においても底泥からの着臭により異臭魚が出現することはないと考えられる。 また港外の底質は大阪港周辺を汚染源とする有機汚染が周辺にかけて徐々におよんでいる模様で、 湾内廃水が泉北港口を通じて港外の底質に影響を及ぼす兆候は見受けられない。しかし底泥中の 油分分析値がn-ヘキサン可溶性物質として定量され、着臭成分としての油分を定量していること にはならないが、「異臭魚に関する特別研究報告書」によるとハゼを使った飼育試験では0.2%の 含有泥上で1日のうちに着臭することが確認されており、油分3mg/dryg以上の値を示す大阪港周辺 から堺港にいたる海域はG石油廃水とは別に底泥からの着臭による異臭魚を発生させる可能性がある。

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大阪湾奥部における河川水の拡散係数を推定する一つの試み

城 久・林 凱夫・三好礼治
Estimation of the Diffusion Coefficient of Fresh Water in the inner Osaka Bay
Hisashi Joh , Yoshio Hayashi and Reiji Miyoshi

大阪水試研報(1):17~21,1969
Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(1):17~21,1969

本文(PDF 337KB)

要点

1) 大阪湾環境水質調査で調査した湾奥部海域の塩分濃度分布図から湾奥部に流入する淀川水系の 河川水が海域で分散する場合の拡散係数を推定した。

2) 拡散係数μkは3.8×102 (m2/hr)=1.05×103(cm2/sec)となったが、 この値を現式に代入した計算値による塩素量は観測値12~14‰の間で約1.5‰高くなった。

3) 計算に使用した観測結果には前述のごとき難点もあり厳密には分散状況を調査することを目的と したより精密な調査を行い、河川流量も再度厳密に検討する必要がある。しかしここで算出したμkは おおまかな値として大阪湾奥部の河川水の分散状況について一つの目安になるものと考える。

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大阪湾の水質、底質ならびに底生動物について

城 久・林 凱夫・三好礼治
Chemical and Biological Studies of Water Pollution in Osaka Bay
Hisashi Joh , Yoshio Hayashi and Reiji Miyoshi

大阪水試研報(1):23~45,1969
Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(1):23~45,1969

本文(PDF 1.38MB)

要約

前述のごとく、底質について湾奥沿岸部で大きな土木工事が行われたこともあって、汚濁の推移に関する 傾向を把握することができなかったが、水質・底生動物については戦争を境として戦後の汚濁進行が比較 的顕著である。即ち、透明度は33年度以降濁った海域の占める比率が増大しているし、COD、アンモニヤ態窒素 の測定値では湾奥海域で近年強い汚濁状況を示すことが多くなっていることがあげられる。底生動物についても 戦後優占種の交代、生息密度の増加、多毛類の増加とそれ以外の動物の減少、種類数の減少など汚濁の進んでい る徴候がいくつか現れている。

そして戦後の20数年間の中でもいくつかの段階がみられ、水質では資料の関係から28~35年、37年以降と徐々に 悪化している様子であり、底生動物についてはそれが31年、40年を境に3つに区分されてるが、いずれも汚濁が 段階ごとに進行しているものと考えられる。

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着油ノリの油除去ならびに油処理剤のノリに及ぼす影響試験

吉田俊一
On the Cleaning Effort to the Oil Polluted and the Toxicity
of some Emulsifized Chemical for Slack "Polphyra ezoensis UEDA"
Syun-ichi Yoshida

大阪水試研報(1):47~49,1969
Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(1):47~49,1969

本文(PDF 249KB)

総括

油流失により重質油が付着したノリひびは灯油で洗滌後、幼芽の場合はその後の成長も期待でき、摘採期にある ものは5~6日張込みすることによって製品にすることもできるのではないかと考える。軽質油の場合は処理剤も 効果は期待できそうである。また養殖場近くで処理剤が使用された場合でもノリの成長阻害にそれほど影響を与 えず、海水の交換が悪いときにはチヂレがみられる程度と推定される。

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酸素補給剤の使用効果について

吉田俊一
On the Direction Effort of a Drug for Oxygen Supply
Syun-ichi Yoshida

大阪水試研報(1):51~55,1969
Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(1):51~55,1969

本文(PDF 299KB)

要約

過酸化水素水を主成分とする活魚輸送用酸素補給剤を1,000ppmの濃度で使用したときには、無使用時に比較して やや長時間魚を生かしておけるが、その効果は微弱で従来の通気法や酸素封入法に対比することはできない。この 原因としては過酸化水素の分解時に発生する分子状酸素により多少の時間延長が認められるが、同時に発生する発生 期の酸素の毒作用のため効果はあまり期待できない。PHの低下を防止するためのトリス・バッハーとの併用も大した 性能向上は望めない。さらに、麻酔剤としてのイソミタール・ソーダ10ppmとの併用はむしろ性能低下をもたらす。 性能向上として考えられるのは過酸化水素から分子状酸素を効率的に発生させることである。さらに研究上からは分 子状酸素と発生期の酸素を区分できる方法を検討する必要がある。

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