大阪府立環境農林水産総合研究所

 

大阪府水産試験場研究報告 第4号

大阪府水産試験場研究報告   第4号

全文(PDF 27.7MB)  付表(PDF 7.08MB)  目次(PDF 64.2KB)

 

  1. 大阪湾における重金属汚染の現況
  2. 大阪湾の漁場環境と底生生物相について(大阪湾の小型機船底びき網漁業漁場実態調査 昭和45年度)
  3. 大阪湾におけるえびこぎ網漁獲物組成の変化について(大阪湾の小型機船底びき網漁業漁場実態調査 昭和47年度)
  4. クロダイ仔稚魚の成長にともなう消化酵素活性の変化

大阪湾における重金属汚染の現況

城 久・矢持 進・安部恒之
The Condition of Heavy Metal Pollution in OSAKA Bay
Hisashi Joh , Susumu Yamochi and Tuneyuki ABE

大阪水試研報(4):1~41,1974
Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(4):1~41,1974
付表 p97~102
Appendix Table p97~102

本文(PDF 8.98MB)

第4章 総括

 今回の調査は大阪湾において重金属による環境汚染の実態を把握し、それが湾内に生息している水産生物の体内濃度に及ぼす影響について検討しようとしたもので、水質・底質・水産生物の3部に分けて2カ年にわたって行なったものである。

 調査の結果は3章にわたって記載したが、その中で大阪湾の海水濃度、底質汚染の実態、水産生物の体内濃度等、重金属汚染の現況に関する輪郭は明らかになった。しかし対象として取上げた重金属は数種に過ぎす、対象海域や水産生物の検体が限定される等各種の制約があって必ずしも本来の目的が十分に達せられたとはいえない。これら不備な点については今後更に精密な調査が必要であるが、今回行なった現況調査の結果を総括的にみれば結論として次のようなことが判明した。

 1)大阪湾の海水中に自然の状態で溶存する4種の重金属はCd0.3~1.0ppb、Zn10~50ppb、Pb3~39ppb、Cu2~6ppbの濃度で存在する。

 2)Znの溶存量は塩分と逆の相関を示す。また、海域に流入後も物理的、化学的変化をあまり急速には受けていない。

 3)大阪湾にあって汚染の中心的海域である神崎川河口海域では、底層の還元状態が緩む冬期に、底質からZn、Pb等の金属が溶出している状況が把握された。なおCuはこの海域でも低濃度で、大阪湾・瀬戸内海全般に濃度差が少ない。

 4)大阪湾の溶存態重金属は外洋水にくらべると高濃度であるが、瀬戸内海や他の内湾と比較して特に高いということはなく、溶存態重金属に限っていえば、大阪湾が重金属によって特に汚染されているという徴候はみられなかった。

 5)大阪湾浅海部における底質汚染の特徴は、芦屋~大阪港にいたる湾奥部に汚染の中心がある。そしてその影響は湾中央部から大阪府中部地先海域におよんでおり、湾口部に近づくにつれて徐々に低減するのが共通的なパターンである。神戸和田岬~堺港を結ぶ線以北の湾奥海域はCDO20mg/1gD.M、n-ヘキサン抽出物2mg/1gD.M以上、全硫化物1mg/1gD.M以上と有機汚染の進んだ海域であるが、この海域は重金属による汚染も進んでおり、Cd3、全水銀1~2、Pb100、Cu80、Zn600、Cr100ppm各以上と高濃度な値を示している。

 6)大阪湾の底質にはCd0.6~39ppm(平均4.34ppm)、Cu10~838(同118)、Pb20~711(同112)、Zn123~2,254(同632)、Fe10,000~49,100(同32,200)Cr9~1,024(同147)全水銀0.08~7.2ppm(平均1.53ppm)の濃度で含まれている。最高を示すのはいずれも大阪港内外と堺港内の海域であった。

 7)有機汚染指標の分布と重金属濃度の分布は基本的に同一パターンを示しており、有機汚染の進んでいるところは重金属によっても汚染されている海域である。したがって有機汚染の指標と各重金属濃度の間には相関が存在する。また重金属相互間の相関はより密接であった。このことは大阪湾の汚染が複合汚染であり、全ての汚染物質が湾奥部に集中的に流入している反面、湾奥海域が停滞水域で水塊の交流度が悪いことをあらわしており、大阪湾の汚染の特徴を物語っている。

 8)酸化還元電位差メーターによる底質の現場測定値は有機汚染指数値と相関がみられ、底質の汚染状況を簡便的に調査するのに適している。

 9)大阪湾浅海部の底質汚染分布において濃度Cと面積Sの間にC=AS-nであらわされるベキ乗式が成立する。

 10)環境汚染と生物体内濃度の関係が最も明確に対応したのがノリ・ワカメ等の海藻である。養殖物を対象としたため汚染の最も進行している湾奥の状況は不明であるが、4採取海域の試料濃度はいずれも北から南の順に低くなり、貝塚地先のノリは明らかにCdによる汚染を受けている。

 11)プランクトンは大阪港周辺で採取された植物プランクトンが泉北以南の海域にくらべて高濃度であり、動物プランクトンでは岸和田沖を中心として北中部の広い海域の試料が南部岬町沖や紀伊水道にくらべて明らかな濃度差を示すなど環境汚染の影響が体内濃度に及んでいた。

 12)底質に密着して生活しているエビ・シャコ等の甲殻類は体内濃度が他種にくらべて高いけれども、環境濃度に影響されることは少なく、むしろ個体の成長に伴って増加する傾向がCu、Hgにあらわれていた。

 13)魚類ではPb、Zn、Hgの3金属に汚染の影響や環境汚染に対応した体内濃度を示すものがみられたが、汚染しているとみなされたものはサバの1検体だけであった。

 14)環境濃度と生物濃度の対応が、海藻類では明確に、プランクトンではやや漠然とした状態で、魚類については部分的に認められたということは、環境から体内への取り込みにあたって栄養摂取、個体成長、生理生態等生物種特有の要因と吸着等物理的な要因がそれぞれ別個に関与していることによるものと考えられる。

 15)今回調査した魚介類可食部濃度についてみる限り、食物連鎖による重金属の体内濃縮は行なわれていないといえる。

 このように大阪湾における重金属汚染はすでに環境の一部を破壊している。そしてその海域に生息している水産生物は種類によって現われ方に差があるが、その影響が部分的に体内濃度に及びつつあると結論することが出来よう。

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大阪湾の漁場環境と底生生物相について
(大阪湾の小型機船底びき網漁業漁場実態調査 昭和45年度)

 

林 凱夫
Relation Between Environmental Factor and Marine Fauna
(On the Small Trawl Fishery in OSAKA Bay ,1970)
Yoshio Hayashi

大阪水試研報(4):42~75,1974
Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(4):42~75,1974
付表 p103~124
Appendix Table p103~124

本文(PDF 4.86MB)

要約

1.底びき網標本船の操業日誌、漁況のききとり等による操業状況調査から以下の知見を得た。

 1)漁期 2)漁場 3)出漁日数 4)各月の漁況

2.大阪湾の11漁区における年4回の漁区別試験操業による生物調査を実施して以下の結果を得た。

 1)出現種類と漁区別出現種類数

 2)個体数組成と主要種の分布

 3)漁区別の多様性

 4)漁獲物と組成

 5)魚類の食性別組成

3.試験操業と同時に環境調査を実施して以下の結果を得た。

 1)底質(強熱減量、全硫化物ほか)と底層水の水質(塩素量、水温)

 2)海底におけるゴミの内容と分布

4.1、2、3の結果をもとに各漁場の利用状況、生物相、環境および大阪湾の小型底びき網の現状等について総合的に検討した。

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大阪湾におけるえびこぎ網漁獲物組成の変化について
(大阪湾の小型機船底びき網漁業漁場実態調査 昭和47年度)

林 凱夫
Change of the Catch Composition on the Beam Shrimp-Trawl
(On the Small Trawl Fishery in OSAKA Bay ,1972)
Yoshio Hayashi

大阪水試研報(4):76~92,1974
Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(4):76~92,1974
付表 p125~136
Appendix Table p125~136

本文(PDF 3.91MB)

要約

1.漁場環境の変化にともなう漁業と生物相の変遷を把握するため、'71、'72年の5~ 12月にわたり、えびこぎ網の漁場、漁獲物組成等を調査し、'55、'56年当時の調査結果との比較を行なうとともに、有用小エビ類の漁獲減少についても検討を加えた。

2.'55、'56年当時のえびこぎ網は、堺市、岸和田市の漁協から5t未満、焼玉10馬力の漁船を主体に出漁していたが、現在は泉佐野漁協の5~10t、ジーゼル15馬力の漁船が中心となっている。しかし夜間操業のため、若い漁業者に嫌われ、かつ小エビ類の漁獲減少とあいまって着業統数は減少傾向にある。

3.えびこぎ網の主漁場は堺~岸和田沖の湾奥部寄りにあったが、水質汚濁等による湾奥部の漁場価値喪失により、現在では湾中央部へ移動している。

4.'71、'72年の調査による出現種類は頭足類、甲殻類、魚類合せて68科139種である。標本採取量が異なるため'55、'56年当時と比較し難いが、エビ類については6科19種でほぼ同様の出現種類であった。

5.全漁獲物中に占めるエビ類の組成割合は'55、'56、'71、'72年のそれぞれで40%前後を占め変化はみられない。

6.しかしその種類組成には大きな変化がみられ、重量組成の平均で'55、'56年当時トラエビ36%、サルエビ、エビジャコ各17%、アカエビ13%、スベスベエビ10%、マイマイエビ2%であったのが、'71、'72年にはサルエビとマイマイエビの2種で90%以上を占めている。

7.'71、'72年における1日1統あたりの平均漁獲量は66kgで、うちエビ類は40kgである。これは、'55、'56年当時の60%および90%に相当する。

8.有用小エビ類の小型底びき網による漁獲量が'55年の1,300t、'56年の1,700tから'71の400t、'72年の580tにまで減少している。これは合わせて75~80%を占めていたアカエビ、トラエビが1~4%に減少したのが原因と考えられる。

注)'55、'56年の調査ではエビ類の種類査定を安田の方法に従ったため、アカエビ(Metapenaeopsis barbat)とトラエビ(M.acclivis)が入れ変って記載されている。本報告ではこれを訂正して記載した。

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クロダイ仔稚魚の成長にともなう消化酵素活性の変化

小菅弘夫・川合真一郎
The Relative Variance of Digestive Enzymes Activity
to the Growth of Black-Sea Bream Larva
Hiroo Kosuge and Shin-ichiro Kawai

大阪水試研報(4):93~96,1974
Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(4):93~96,1974

本文(PDF 582KB)

摘要

人工採卵し得られたクロダイの卵、仔稚魚を用いて、成長にともなう消化酵素活性の変化を調べた。

1) 種苗生産におけるクロダイの餌料転換はふ化後18日頃から必要となる。

2) クロダイにおいてもアミラーゼ活性が大きいことは配合飼料の開発が可能であることを示唆している。

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