大阪府立環境農林水産総合研究所

 

大阪府水産試験場研究報告 第8号

大阪府水産試験場研究報告   第8号

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大阪湾におけるHeterosigma akasiwoの赤潮発生機構に関する研究

矢持 進
Mechanisms for Outbreak of Heterosigma akashiwo Red Tide in Osaka Bay,Japan
Susumu Yamochi

大阪水試研報(8):1~105,1989
Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(8):1~105,1989

総合的考察(要旨)

 本論文は、大阪湾におけるHeterosigma akashiwoの赤潮発生機構を解明することを意図して、1978年から開始した野外調査と培養実験の成果を取りまとめ、Heterosigma akashiwoの生理・生態学的諸特性を明らかにし、環境因子の時空間的変動との関係を考察し、大阪湾におけるHeterosigma赤潮の出現は次のような機序に基づく現象と推定した。

(1)秋から初冬の温度下降によって休眠状態となったHeterosigma akashiwoの底生期細胞は10℃前後の低温を経験することによって覚醒し、春期には温度が低くても海底泥からの栄養細胞の出現が可能となる。

(2)そして新しく海底泥から出現した細胞と栄養細胞のままで越冬した少数の細胞とが、その後の海水温度の上昇に伴い増殖を開始する。

(3)この増殖は水温が18℃を上回ると活発になる。また15℃以上の泥温では海底泥からの栄養細胞の出現が良好な状態で安定する。

(4)さらに、栄養物質に富んだ陸水の流入により表層水中の窒素・燐濃度が増加するとともにキレート鉄が添加されると、増殖が著しく促進され赤潮が形成される。

(5)光合成活動に伴って表層水中の栄養塩レベルが低下しても、夜間に躍層下端へ移動することによって細胞への栄養物質の取り込みが継続され、群の維持と増大がはかられる。

(6)この過程で窒素や燐への依存性が強く、また日周鉛直運動により下層の栄養物質を利用できない植物プランクトンが駆逐される。

(7)その他、日周鉛直運動において昼間に上層へ集積することが本種の濃密な赤潮の形成に寄与する。

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