大阪府立環境農林水産総合研究所

 

大阪府水産試験場研究報告 第2号

大阪府水産試験場研究報告   第2号

全文(PDF 4.93MB)  目次(PDF 57.7KB)

 

  1. 海水中に溶存する微量メチル水銀の魚貝類への蓄積について
  2. 神崎川河口海域における河川水の拡散について
  3. 大阪湾東部海域の海況について
  4. 大阪湾の小型機船底びき網漁業漁場実態調査(昭和44年度)
  5. クルマエビの保護育成と放流効果について(栽培漁業実践漁場設定調査事業)
  6. イソゴカイの養殖に関する研究-Ⅰ蓄養方法について
  7. イソゴカイの養殖に関する研究-Ⅱ採卵および飼育について

海水中に溶存する微量メチル水銀の魚貝類への蓄積について

城 久
Studies on the Accumulation of Methylmercury Chloride to Marine Fishes.
Hisashi Joh

大阪水試研報(2):1~5,1970
Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(2):1~5,1970

本文(PDF 280KB)

結果と考察(要旨)

大阪湾で漁獲されるアナゴ、ウナギ、アサリを微量メチル水銀溶液中で飼育し、飼育環境水の 水銀濃度別に体内蓄積について調べた。その結果、メチル水銀濃度5×10-3ppm以上で 蓄積が認められ、アサリは比較的早く、ウナギでは40日以上経過した後に、アナゴでは20~60日の間に蓄積された。 排水中のメチル水銀濃度は、この試験よりはるかに低い値であり、大阪湾産魚介類が生息している環境水から直接 有機水銀汚染をうけることはない。

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神崎川河口海域における河川水の拡散について

城 久・三好礼治
On the Diffusion of Eresh Water around the KANZAKI River Estuary.
Hisashi Joh and Reiji Miyoshi

大阪水試研報(2):7~19,1970
Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(2):7~19,1970

本文(PDF 550KB)

むすび

以上塩素量、CODの分布観測をもとにその拡散と稀釈について論じたが、拡散係数や風による濃度分布の押し流し についての理論的な考察はまだ不十分であり、湾奥部における海岸線の複雑さも考え合せるともっと多くの観測 結果を集積する必要があるが、今回の調査結果から概観して次のようなことがいえる。

1.当海域における流入河川水は無風時には水平方向、鉛直方向に拡散し、その係数が 7.02×105、0.395cm2/secであることが確かめられた。ここで 得られた水平拡散係数Krは前報(鉛直拡散はkという無次元の係数を使用して水平拡散 に消化させ、その拡散係数をμkとして表現した)のμと本質的には同じもので、その 対応は(11)式でのべた。
したがってkの値は

神崎川河口海域における河川水の拡散について

となりこの程度の大きさをもった数と推定される。

2.河川水を汚濁物質とみてそれが淡水と同じ状況で海面に拡散するとすれば無風時には汚濁源から出た汚濁物質は 3.3km沖で0.42、5.2km沖で0.21、7.2km沖では0.12倍の濃度に薄められることになる。

3.当海域では夏期SW~WSWの風が卓越しており、その影響が拡散作用にかさなるため、海面での現象は実測値にみら れるように北側で稀釈率が高くなり、南側で低くなって見かけ上大阪港周辺部の汚れが目立つことが考えられる。

4.したがって当該海域の清浄化をはかるには汚濁負荷量の大きい神崎川をはじめ淀川、大阪市内河川等の湾奥部に流入 する河川水の浄化が必要であり、個々の汚濁源についてもその除去あるいは低減に対して広範囲な努力が必要である。

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大阪湾東部海域の海況について

城 久・三好礼治・林 凱夫
Hydrographic Condition in the Eastern Osaka Bay
Hisasi Joh ,Reiji Miyoshi and Yosio Hayashi

大阪水試研報(2):21~59,1970
Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(2):21~59,1970

本文(PDF 2.55MB)

総括

以上各観測項目について大阪府地先海域の海況を海域別、季節的に通観したが、大まかにみて北部海域は内湾沿岸水の特徴を、 南部海域は沖合性水塊の特徴を示しており、中部沿岸海域はそれらの中間の特徴を示していた。しかし項目によってはこれらの 区別が入り混じっていたり、沿岸水と沖合水がじかに接しているような場合もみられ便宜的に分けた3つの海域が海況からみて どのように区分されるかについては判定がつかない。
ここではこれらを総合的に検討して水塊の分布とその特色を明らかにし本府地先海域の海況の輪郭を知る手がかりとしたい。

表-3 地点別海域特徴の出現状況

St. 観測項目 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11
水温
水色
透明度
濁度
塩素量
溶存酸素
COD
PO4-P
SiO2-Si
NH4-N
NO2-N
NO3-N
プランクトン
海域の判定 沿岸 沿岸 沿岸 混合 混合 混合 沖合 沖合 沖合 沖合 沿岸

○印・沿岸水の特徴を示す、□印・沖合水の特徴を示す、△印・その中間的な特徴を示す

表3は各項目の平均値あるいは季節変化の状況から、観測点別に(イ)内湾沿岸水の特徴を 示すところ(ロ)沖合水の影響が強い点、および(ハ)その中間的なものの3つに区分してそれ を記号で表したものである。表によるとst1、2、11の3点は各項目とも沿岸型であり、st3~6の 間で沿岸型と中間型(混合型)が入りまじっている。しかしその頻度等を考慮すればst3は沿岸 型にst4、5、6は混合型と区分できる。これに対してst8、9はほとんど全ての項目で沖合型と 判定されst7、10が時には混合型、沿岸型を示すことがあるが全体としてst7、8、9の南部海域 およびst10の中部沖合海域は沖合型海域とみなすことができる。沿岸型海域(st1、2、3、11)は 湾奥部にあって淀川、大和川等多量の河川水と共に各種廃水が流入 しており、赤潮が発生することが多く汚濁海域となることが多い。また潮流が緩慢なため夏期は 水塊が躍層を形成しており、一年を通じて季節的な変動が大きく一面湖沼的な性格を有している といえる。具体的な特徴を例記すれば表層水温は最高30℃最低5℃で年間変動巾は24~25℃に達し 夏期には水温躍層が形成される。透明度は1~3mと低く、濁度は2以上となることが多い(平均濁度2~3)。 海面はオリーブないし黄茶系の色を示し海面らしい灰緑~青緑色を示すことが少なく外見的にも 汚濁していることが多い。また塩素量は河川水の影響が強く表層水は17‰以下の低い値で、鉛直 塩分差が大きくなっている。特にst1、11の湾奥部は常時表層の塩素量が中底層を大きく下廻って おり稀釈河川水の上乗り現象がみとめられる。溶存酸素は夏期表層水が過飽和となり底層水では 50%以下に減少して躍層が生じている。しかし秋期10月以降は水温躍層の消失とともに鉛直混合 が行なわれ、各層とも70%前後の飽和度となっている。栄養塩類は全般的に豊富であるが季節変 化が大きく、夏期は鉛直差を生じていることが多い。中でも燐酸塩、けい酸塩は夏期の鉛直差が 大きく、表層水ではプランクトンによって溶存量が減少しているが、底層では堆積物の分解が行われる ためか多量に含まれており、秋の躍層の消失にともなって上下均一になっている。窒素塩の溶存量 についてはNO2-N、NO3-Nは地域的な分布の特徴は 少なかったが、NH4-Nは表層水に多くその根源が陸岸から流入する汚濁水 にあることが推測される。プランクトンについては多くの場合Skeletonemaが優占種となるが、 けい藻類の繁殖がおとろえる夏~秋期にはべん毛類、せん毛虫類等が代わって優占種となっており、 量的には個体数が多く季節によってその増減がはげしい。沖合型海域(st7、8、9、10)の特色は沿岸 型海域とは逆の現象であり、夏期に躍層が形成されることもほとんどなく、季節変化も少なくなっている。 即ち水温は9月の最高時28℃、2月の最低時には6~7℃でその変動巾は沿岸型海域にくらべて3~4℃少ない。 透明度は平均5m前後で時には10m近くになり、表層水の平均濁度が1以下で海面が異状に着色することが少 なく、今回の観測では常にオリーブ緑~青緑色を呈していたこと等から汚濁することが少なく清浄な海域であ るといえる。塩素量は湾奥st1、11よりも平均2‰以上も高く17.5~18‰の値を示しており鉛直差はほとん ど生じない。溶存酸素はst7、8の沿岸部の点では夏の1、2ヶ月を除いて鉛直差がなく極度に過飽和になる こともなかった。しかし沖合部のst9、10 では赤潮発生の影響がみられるときに表層水の飽和度が200%以上 となったが、底層水は沿岸型海域のような夏期の飽和度の減少はあらわれていない。表層水のCODはこの 4地点が平均2ppm以下で他海域と明らかに区別され、それだけ有機的汚濁が少ないことをあらわしており、 水色、透明度、濁度等の視覚的な汚濁指標ともほぼ一致している。栄養塩類は全般的に沿岸型海域よりも 少なく季節変化も小さくなり、安定した量を保っている。またその鉛直差もほとんど生じていない。 プランクトンではこれらの海域の一部が他海域と異なった優先種になっていて生物的にも異質の水塊であ ることが多いが優占種が同一のときでも概して個体数が少なく、今回の調査では赤潮となるにいたらなか った海域である。 混合型海域(st4、5、6)は沿岸型と沖合型海域の間にあって両者の水塊が混合しているところで、その特色も 沿岸型と沖合型の中間にある。しかし項目によっては沿岸型と変わりなく沿岸型水塊か沖合型水塊と接して いる様相を示す場合もあり、どちらかといえば沿岸型海水の影響が沖合型よりもより強い海域といえよう。 このように大阪湾の東半分を占める本府地地先海域はその場所や季節によってそれぞれ特徴のある海況 を示しており、比較的狭少かつ単調な海岸線を有する海面も海域によって占める水塊が異なることが明 らかとなった。この相違は主として地形等の自然的な要因にもとずくものと考えられるが、近年になって 後背地から人為的に加えられる諸要因が急に強くなり、それが沿岸水の汚濁、赤潮となってあらわれ沿岸水 の特徴を一層明確にするとともに時によっては混合型水塊にもその影響を及ぼしているといえる。

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大阪湾の小型機船底びき網漁業漁場実態調査(昭和44年度)

林 凱夫
On the Fishing Ground and Catch Composition of Small Trawl in OSAKA Bay,1969
Yoshio Hayashi

大阪水試研報(2):61~80,1970
Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(2):61~80,1970

本文(PDF 1.33MB)

要約

大阪湾の小型機船底びき網漁業および当該漁場について以下の知見を得た。

1.泉佐野漁協における漁業種類別出漁隻数の月変化。

2.泉佐野漁協における漁業種類別1日1隻あたりの漁獲量の月変化。

3.泉佐野漁協に水揚げされる底びき網主要魚種の漁獲量と単価の月平均。

4.泉佐野および尾崎漁協の月別出漁日数。

5.月毎の漁場と出漁頻度ならびに主要漁獲物。

6.試験操業(石げた網)による漁区別漁獲種類数。

7.底びき網(石げた網)の漁獲組成と漁区別漁獲量。

8.主要魚種の漁場。

9.試験操業で漁獲された主要魚種の体長(頭胸甲長)組成。

10.漁場の底質と底層水の水質。

11.漁場におけるゴミの種類と分布。

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クルマエビの保護育成と放流効果について(栽培漁業実践漁場設定調査事業)

時岡 博
On the Farming and the Discharging of Prawn
Hiroshi Tokioka

大阪水試研報(2):81~93,1970
Bull.osaka pref.Fish.Exp.Stat.(2):81~93,1970

本文(PDF 672KB)

要約

1.昭和44年度瀬戸内海栽培漁業実践漁場設定調査事業を泉南郡南海町西鳥取-箱作において実践した。

2.保護育成場は沿岸より沖合50m巾100mにサンライン30目の三方囲網とし、裾部に12mmチェンを取り付け 更に20~30cmを埋込み種苗の逸散、害敵の侵入を防いだ。
飼育経過は7月30日瀬戸内海栽培協会玉野事業場よりP25~26の種苗235万尾を陸上輸送により運搬、 育成場に放養23日間飼育し、8月21日632,000尾(歩留25%)を放流した。

3.保護育成場付近の底質は岸より200~500m沖合までは殆ど細砂・小砂でこれより沖合に向かって 順次泥成分が多くなっている。育成場内は小砂が大半を占め稚エビの潜砂しやすい地域である。

4.保護育成場附近の生物相は魚類27種、甲殻類9種で最多出現種はマダイ稚魚で全体の40%以上を 占め次でハゼ類の20~40%であった。又天然クルマエビの発生状況は種苗放養前日の調査で体長25~29mm の稚エビが採捕されたほか附近に天然発生と思われる大型エビが採補されている点若干の天然群が 発生しているようである。

5.放流後の分散移動状況は10月中旬頃までは沖合への移動は比較的少なく、岸に沿って拡がり主とし て巨岸200m以内に生息しているが10月下旬以降は急速に沖合へ移動し、11月には1,500m~2,000m沖合 に達するようである。

6.成長は育成中はやや悪く放流時平均33mm程度であったが放流後は順調な成長を示し、約40日で 平均体長101.9mmに達し漁獲の対象となる。11月以降は成長も鈍り11月14日の標本調査では 体長122.9mm体重23.4gであった。

7.クルマエビ放流後における実践漁場内の他生物の生息相に及ぼす影響は殆ど認められなかった。

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イソゴカイの養殖に関する研究-1蓄養方法について

吉田俊一
Studies on the Culture of Polychaeta Worm,Perinereis brevicirris,for Fishing Bait,-Ⅰ
Syun-ichi Yoshida

大阪水試研報(2):95~98,1970
Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(2):95~98,1970

本文(PDF 160KB)

結論

飼育装置は、しいて複雑な干満式とする必要がなく、単に通気循環式でも摂餌や生殖行動に支障がなく、この方が稚仔流失のおそれがないといった利点がある。そこで消失水を補給する程度に時々流水にするのがよいと考える。また人工海水による飼育も可能であるので、清浄な海水の得られない地域でも飼育できる。基質は、経済性を考慮すれば細砂が最適であろう。

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イソゴカイの養殖に関する研究-2採卵および飼育について

吉田俊一
Studies on the Culture of Polychaeta Worm,Perinereis brevicirris,for Fishing Bait,-Ⅱ
Syun-ichi Yoshida

大阪水試研報(2):99~103,1970
Bull.Osaka Pref.Exp.Stat.(2):99~103,1970

本文(PDF 338KB)

要約

1)飼育槽に塩ビ魚函を用い、これを3段の棚に配列して通気循環と極少量の流水を併用して飼育した。

2)採卵用虫体はできるだけ地元で秋に自家採捕したものがよく、釣餌業者から購入したものはあまり適当でない。

3)実験的には養殖の方法を把握することができた。

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