大阪府立環境農林水産総合研究所

 

大阪府水産試験場研究報告 第9号

大阪府水産試験場研究報告   第9号

全文(PDF 8.9MB)  目次(PDF 375KB)

 

  1. 大阪湾東部沿岸域における貧酸素水塊について
  2. 大阪湾南部砕波帯に出現する幼稚仔魚
  3. 大阪湾におけるオニオコゼの成長
  4. マアナゴの資源管理のための漁獲制限体長の設定とアナゴかごの適正目合の選定およびその効果の予測について
  5. 大阪湾におけるヨシエビの漁業生物学的研究

短報 淀川河口域底層における酸素飽和度の短期変動

大阪湾東部沿岸域における貧酸素水塊について

中嶋昌紀
Oxygen-Deficient Water Mass inthe Eastern Coastal Port of Osaka Bay
Masaki Nakajima

大阪水試研報(9):1~10,1995
Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(9):1~10,1995

本文(PDF 753KB)

要約

1993年6月から8月の間、1週間~2週間間隔で行った水温、塩分、溶存酸素の観測結果をもとに、岸沖方向の鉛直2次元ボックスモデルを構築して大阪湾東部沿岸域(泉大津沿岸:St.13、貝塚沿岸:St.19)の貧酸素水塊の変動過程について検討した。結果の要約を以下に示す。

1)夏季の大阪湾東部沿岸域の水温場に関する移流拡散過程は沿岸方向より岸沖方向の方が卓越していて、両地点の岸沖方向の移流拡散過程はほぼ同じ大きさと位相を持つ。

2) 期間中の見かけの酸素消費速度(R)の平均値はSt.13が0.35ml/l/day(0.50mg/l/day)、St.19が0.43ml/l/day(0.61mg/l/day)だった。この値は三河湾で5日間の連続観測から推算された値(0.65mg/l/day)や、周防灘南西部で明暗ビンによって得られた値(およそ0.5-1.0mg/l/day)と比較するとやや小さいが同じオーダーだった。また、Rの最大値はSt.13で1.0ml/l/day(1.4mg/l/day)、St.19で0.96ml/l/day(1.4mg/l/day)だった。

3)ボックス下層のDO収支ではDO濃度の水平傾度があれば移流項が拡散項と同じくらいの大きさになるので、東部沿岸底層のDO収支には水平移流によるDO輸送が重要であるといえる。

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大阪湾南部砕波帯に出現する幼稚仔魚

辻野耕實・安部恒之・日下部敬之
Larval and Juvenile Fishes Occurring on Surf Zones of Southern Coast in Osaka Bay
Koji Tsujino ,Tsuneyuki Abe and Takayuki Kusakabe

大阪水試研報(9):11~32,1995
Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(9):11~32,1995

本文(PDF 2.31MB)

要約

1.1986年4月~87年8月の間に、大阪湾南部の砕波帯に出現する幼稚仔魚を調査し、 その結果92種以上、 29,954尾の幼稚仔魚(一部成魚、未成魚を含む)を採集した。

2.当該域における幼稚仔魚の個体数は春、夏期に多く、秋季に少ない。種類数は夏期を 中心に多かった。また、地形、環境の異なる調査定線でも同様の季節変動がみられたが、多くの月では周辺に藻場のある水域で個体数、種類数が多く、河口域ではともに少ない傾向 がみられた。

3.当該域に最も多く出現したのはクロサギで、次いでセスジボラ、メジナ、クロダイ、ミミズハゼが多く、 この上位5種で全体の約80%を占める。この他に水産場の有用種としてシロギス、イシガレイ、マハゼ、コノシロ、アユなど が多かった。また、これらの幼稚魚は他海域との比較から、砕波帯に能動的に来遊してくるということが判った。このことは 外海域の報告ともよく一致していた。

4.当該域で採集された魚種について、その出現様式から4つの魚類群集に、さらに利用 形態から4群に分離した。 また、そのうちの主要な35種については、採集時期別の全 長範囲の変化を図示し、その出現特性について記述した。

5.4および外海域での調査結果との比較から、内湾域の砕波帯は稚仔魚にとって浮遊期から新たな生活期へと生活様式が転換する際の「準備室」と成育の場としての機能を合わせ持ち、単調な砂浜では「準備室」として、さらに近傍に藻場や河川などがある水域では、「準備室」はもとよりその後の成育の場としても機能していることが判った。

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大阪湾におけるオニオコゼの成長

有山啓之
Growth of the Devil Stinger Inimicus japonicusin Osaka Bay.
Hiroyuki Ariyama

大阪水試研報(9):33~39,1995
Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(9):33~39,1995

本文(PDF 479KB)

要約

1)1989年4月~1994年3月の5年間に大阪湾で漁獲された小型オニオコゼ1,405尾の全長組成を群分離し、成長を解析した。

2)各月とも2群が認められ、標識放流個体の成長状況から0~2歳の年級群と推定された。

3)当歳魚は,9月には全長56mmであったものが急激に成長し、成長停止期の1~5月の平均全長は122.6mmとなった。5月から 12月まで再び成長し、1歳魚の成長停止期(12~5月)の平均全長は175.3mmであった。5月から成長が再開され、2歳の8月には平均207.0mmに達した。

4)採捕された標識放流個体の成長は、大部分において天然群より劣っていた。

5)成長式としては、成長期にはロジスティック式、成長停止期には直線式がよく適合した。

6)飼育個体の成長と比較したところ、今回得られた成長の方がはるかに良好であった。また、他海域での成長よりも良好で、餌料環境の違いによるものと考えられた。

7)雌雄による成長の違いと、全長80mm未満の小型魚および3歳以上の大型魚の成長が問題点として残された。

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マアナゴの資源管理のための漁獲制限体長の設定と
アナゴかごの適正目合の選定およびその効果の予測について

鍋島靖信・安部恒之・山本圭吾・大本茂之・東海 正
Establishment of Minimum Permissible Capture Length and Selection of
its Appropriate Mesh Sizes of Basket Trap
Targeting White-spotted Conger Eel Conger myriaster(BREVOORT)
for Fisheries Oriented Resource Management, and its Estimated Effect.
Yasunobu Nabeshima ,Tsuneyuki Abe , Keigo Yamamoto ,
Shigeyuki Omoto and Tadashi Tokai

大阪水試研報(9):41~55,1995
Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(9):41~55,1995

本文(PDF 3.09MB)

摘要

1.アナゴの商品サイズとしては全長28cm以上必要で、全長35cm~43cmの範囲のものが最も高価に取り引きされ、これより大きくても小さくても価格は大幅に低下する。アナゴは湾内流入後10ヶ月から2年以内を最適漁獲期間とし、その間の成長が早く最も価格もサイズによって急上昇する。

2.漁業者の漁獲収入を減らさず、無理なく守れる漁獲制限体長として、商品サイズの下限に当たる全長28cmを漁獲制限体長にと提案し、資源管理部会で採択された。

3.アナゴかご専業者の年間漁獲量は8.8~11トンである。ビリアナゴは概ね10月から翌年7月まで漁獲され、専業者で年間0.1~2.8トンを漁獲している。目合内径が15~16.5mm(20~19節)の小さなアナゴかごを使用している漁業者は、それより目合が大きい18mm(18節)を使用する漁業者よりビリアナゴの漁獲比率が高い。両者の日平均漁獲量には大きな差がないが、漁獲尾数は前者が非常に多く、漁獲金額は後者が高かった。このため、網目を拡大することによって漁獲収入が増加する効果があると考えられた。

4.ビリアナゴは成長に伴う魚体重の増加と価格の上昇により、3ヶ月で1.5倍、1年で10倍と短期間に価格が急上昇する。

5.漁業日誌から平均的アナゴかご漁業者のモデルを作り、漁獲したビリをすべて放流し、それらが小型や中型アナゴに成長し、現在の漁獲に添加された場合の試算を行った。小型魚で漁獲に添加されると、漁獲量は年間0.8トン増加し、漁獲金額は77万円の増収となる。中型魚で漁獲に添加されると、漁獲量は年間2.1トン増加し、漁獲金額は同じく307万円の増収となる。このように価格の安いビリアナゴを漁獲せず、価格の高いサイズに成長したものを選択的に漁獲することによって、漁獲金額の増加が期待できる。

6.目合内径15mm(20節)、18mm(18節)、21mm(16節)、24mm(14節)の4種類のアナゴかごによる試験操業の結果、すべてに全長28cm未満の個体が入網し、目合が細かいほど小さな個体が漁獲された。特に、目合15mm(20節)と18mm(18節)には漁獲制限体長未満のアナゴが多量に漁獲されるが、商品サイズのアナゴの漁獲量は18mm(18節)が最も多かった。

7.アナゴかごの網目選択性曲線をMillarの方法によって推定した。これによる目合内径18mm(18節)の50%選択全長は220mm、21mm(16節)は265mm、24mm(14節)は280mmで、全長28cm以上のものを50%以上の選択率で漁獲するには、少なくとも目合内径24mm(14節)の目合が必要となる。しかし、網目による選択率は経済的にも考慮する必要があり、試験操業結果や漁業者の意見を参考に現実的な目合の選定を行った。

8.漁業者の試験網のモニタ-結果では、目合内径15mm(20節)は夏期から秋季に漁獲制限体長以下の個体が多量に漁獲されるので、選別に手間がかかる。目合内径24mm(14節)ではなかアナゴ以上は漁獲されるが、ビリアナゴから小アナゴがほとんど抜け出て、実際の漁に使用できない。また、目合内径21mm(16節)でもビリアナゴが少なく、その時期の漁獲金額の減少につながる。目合内径18mm(18節)は全長28cm未満の漁獲制限体長も入網し選別が必要ではあるが、目合内径15mm(20節)よりは超極小個体の入網が少なく、漁獲成績もよいとの情報を得た。これらの結果から目合内径(18節)から21mm(16節)の中間に最も現実的な目合内径があると考えられた。

9. 漁業者は全長28cm以上のアナゴを漁獲する現実的な目合として、目合選択率が100%になる目合を選定した。

10. 全長28cm以上のアナゴを選択的に漁獲する現実的な目合として、目合内径19.5mm(17節)付近が適合ではないかと考えたが、管理方策としては現行の15mm(20節)から18mm(18節)に網目を拡大し、徐々に最適網目に調整することとなった。 

11. 1992年からアナゴかごに関する調査を行った結果をアナゴかご資源管理部会で検討し、1993年度にアナゴかごに関する資源管理指針を設定した。

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大阪湾におけるヨシエビの漁業生物学的研究

安部恒之・日下部敬之・鍋島靖信・辻野耕實
Fisheries Biology of the Greasyback Shrimp Metapenaeus ensis in Osaka Bay
Tsuneyuki Abe ,Takayuki Kusakabe , Yasunobu Kusakabe and Koji Tsujino

大阪水試研報(9):57~76,1995
Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(9):57~76,1995

本文(PDF 1.99MB)

要約

 1983年以降、さまざまな事業で集められたヨシエビに関する標本船日誌デ-タ、生物測定デ-タを用いて、大阪湾産ヨシエビの漁獲量変動、成長、成熟、分布に関する知見を得た。

1. 大阪湾のヨシエビは夏~秋期に底びき網(石げた網)漁業で漁獲される重要種であるが、近年では1990年から資源が増大し、漁獲盛期の始まりは増大前後で8月から7月へと変化した。

2. 石桁網漁獲物の4年間の体長組成の推移から、雌雄ともに早期、晩期の2つの季節発生群が存在することが考えられた。

3. 6月から9月の間、旬別の雌の生殖腺重量を測定した結果、全体の産卵期は6月下旬から9月上旬であるが体長組成で推定した発生群毎に産卵期、産卵盛期が異なることが明らかにされた。満2歳の早期発生群の産卵は6月下旬から始まり7月を盛期とするのに対し、満1歳の晩期発生群の産卵は2歳早期群より約1ヵ月遅れて始まり8月を盛期として9月上旬まで続くことがわかり、産卵生態からも季節発生群の存在が裏付けられた。

4. 体長組成の推移と産卵期から雌雄別・発生群別に成長を推定した。雌雄とも7~12月に成長するが雄の成長速度は小さい。また1~6月の成長は停滞する。雄の早期発生群と発生後5~6ヵ月経った12月頃100mmで一部漁場に加入する。約1年で体長120mmに達し産卵する。1年4ヵ月で145mmに達した後は成長せず、約2年で2回目の産卵後死亡する。雌の晩期発生群は発生から1年3ヵ月を経過した10月頃100mmで漁場に加入する。約2年後の7月には130mmに成長し初めて産卵する。産卵後もゆるやかに成長し2年半で死亡する。雄の成長様式は雌と同じであるが約125mmまでしか成長しない。

5. 大阪湾の各海域で操業する底引き網(石げた網)漁船の4年間にわたる標本船日誌デ-タを整理し、、海区別(2.5分メッシュ)に月別の漁獲量分布を求め、その季節分布の特徴について検討した。産卵期の6月~7月に沿岸域に高密に分布するが、8月以降は沖合に分布域が移り9~10月は湾全体に分布するようになる。11月以降分布密度は減少し、1~5月は湾内での漁獲は少なくなる。なお、夏季の沿岸域の分布は貧酸素水塊の消長と深く関連していることが考えられた。

6. 標本船日誌調査から1989年以降の日別漁獲量の推移を季節発生群の消長と関連づけて検討した結果、1989年前期および晩期発生群の増大が1990年以降の増加をもたらし、特に晩期発生群が近年の漁獲量を支配しているものと推定した。

7. 1955年以降の漁獲量経年変化を水温変化と関連づけて検討した。1990年、1979年のように漁獲量が急増する前年は高温傾向が、逆に急減する前年は低温傾向が卓越していることが明らかになり、ヨシエビ種苗生産の飼育環境基準である水温25℃は天然においても生き残りを支配する基本要因であると考えられた。

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短報
淀川河口域底層における酸素飽和度の短期変動

佐野雅基・矢持進・有山啓之
Short-TermFluctuations of Dissolved Oxygen Saturation of the Bottom Water
at the Mouth of Yodo River
Masaki Sano , Susumu Yamochi and Hiroyuki Ariyama

大阪水試研報(9):77~79,1995
Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(9):77~79,1995

本文(PDF 215KB)

要旨

 大阪湾の最奥部に位置する淀川河口域で、1992年9月25~26日と1993年8月30~31日に底層の酸素飽和度、水温、塩分、流向、流速の連続測定を行った。両観測とも酸素飽和度が30%変動する現象が認められた。1992年9月25~26日の場合は、塩分、流向、流速との対応及び当時の気象条件から、底層の水塊構造の乱れが変動要因と考えられた。

1993年8月30~31日の場合は、水温、塩分、流向、流速との対応から底層水塊の水平的な移動が変動要因と推察された。こうした底層酸素飽和度の短期変動は、著しく貧酸素化するこの水域に分布するヨシエビ稚仔の生残に有利に作用するものとみられた。

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