大阪府水産試験場研究報告 第7号
大阪湾における富栄養化の構造と富栄養化が漁業生産に及ぼす影響について
城 久
Studies on the mechanism of eutrophication and the effect of it on fisheries
production in Osaka Bay
Hisashi Joh
大阪水試研報(7):1~174,1986
Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(7):1~174,1986
はじめに(要旨)
本論は主として1970年代以降に行った調査研究の成果をとりまとめ、大阪湾における富栄養化の実態と富栄養化が漁業生産におよぼす影響の一端について論述した。
序章では、大阪湾の富栄養化機構を究明するに先立って、内湾生態系を外面的に制約する要因となっている地理的条件などの環境特性についてその概要を説明するとともに、成層の消長および貧酸素水塊の発生状況と形成要因について論述した。
本論第1章ではまず、大阪湾の海域環境が過去30~40年の間どのように変貌したかを漁業生産、生物相、水質環境などから富栄養化現象に焦点を置いて概観する。
第2章は富栄養化の原因物質であるリン・窒素などについて陸上から排出される負荷量を経年的に推定し、負荷量の変化に対する環境濃度の応答について検討した。
第3章では、陸岸から流入したN、Pの海水中における時空間的分布の特徴や、それらの挙動について各形態別に検討した。
第4章は内湾の物質循環系にあって最も特徴的な現象とされる底質をめぐるN、Pの出入を明らかにするために、底質上層におけるリン・窒素などの堆積構造、リンの溶出形態および溶出・沈降過程の速度について検討した。
第5章は富栄養化の顕著な現象である赤潮について湾内の発生状況と特徴を明確にし、赤潮発生前後の海況変動と既往知見をもとに大阪湾における赤潮発生要因を考察した。
第6章では海域環境の富栄養化が魚業生産におよぼす影響を検討するために、植物プランクトン・動物プランクトン・ベントスなどの低次栄養階層の生物現存量と生産量のあらましを推定した。
第7章は3章~6章で測定し、検討したN、Pの現存量や循環速度などを総合して湾全域におけるN、Pの循環と収支を見積るとともに、富栄養化が魚業生産におよぼす影響の一端について餌料的側面から考察した。
最後に第8章では全体の結果を総合的に考察することによって大阪湾における富栄養化の全体像とそのメカニズムを明らかにする。そして大阪湾における望ましいN、Pの濃度レベルとそれに対応した漁場の利用形態、今後の見通しなどについても言及している。
魚庭(なにわ)の海とも呼ばれる大阪湾の豊かな環境を守るために行っている、当センターの活動を紹介していますので、ぜひご覧ください。
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