本田管理 その6
本田管理 その6
除草・病害虫防除
<除草>
雑草防除は水稲栽培における重要な管理作業の一つである。物理的に雑草を除去するしかなかった時代に比べ、除草剤の実用化で作業労力は大幅に軽減されることになった。うまくやれば畦を数周歩いて薬剤を放り投げるだけで除草作業のために田に入る必要すら無いこともある。これら高性能な除草剤の能力を十分に引き出し、的確に効かせていくためのポイントについて見ていきましょう。
<水田雑草の種類>
水田に発生する雑草は大きく分けて一年生雑草と多年生雑草に大別できる。そしてそれぞれにイネ科雑草と広葉雑草に分けることが出来る。
<1年生雑草>
1年生雑草とは春~夏に種子から発生し、秋には種子を作って枯れてしまう草本性雑草をいう。ちなみに秋に種子から発生し、翌年春に種子を作る雑草は「越年生雑草」と呼ぶ。
タイヌビエ
水田に多く発生し農家を一番悩ますイネ科の強害雑草である。入水代かき後数日で発芽し、2~3週間で分げつを開始し大きな株になっていく。はじめは水稲と区別がしにくいが、イネは葉舌に毛があるがタイヌビエにはないので区別ができる。
7~9月に10~15cm程度の穂を付け、30日くらいで成熟し脱粒しだすことでイネの収穫時にはすでに水田に種子を落とし終わっている。こうして翌年の発生のための種子が水田に残されていくため、穂をつけさせないことや穂が付いたら成熟前に除去することがヒエ防除の要となる。
タイヌビエの他に水田にはイヌビエ、ケイヌビエ、ヒメタイヌビエなどが発生する。これらを総称してノビエ類と呼ぶ。
カヤツリグサ類
タマガヤツリ、カヤツリグサなどカヤツリグサ科の一年生広葉雑草をいう。葉は細く柔らかくとがっているがイネ科でなく広葉雑草の一種。ミズガヤツリのような多年生種もある。7~8月頃に褐色の穂をつける。古代エジプトの世界最古の紙で有名なパピルスもこの仲間の多年生種。
コナギ
水田や湿地に生育するミズアオイ科の一年生雑草。ミズアオイ、ホテイアオイもこの仲間。放置するとみるみる水田一面を覆い尽くす増殖力があり強害雑草といえる。発芽時には細長く扁平な葉でウリカワやオモダカと区別しにくい。次に出てくる葉はササ型で成葉はスペード型をしている。花は小さいが青紫色で非常に綺麗。30年くらい前から葉や花びらが細型の新規外来種のアメリカコナギが西日本各県で見られるようになっており、白花変異種も府内で確認されている。
養分をイネから奪う力は水田雑草中でも最強の部類で繁茂するとイネの生育にかなり影響がある。その他1年生雑草
府内水田ではアゼナ、キカシグサ、アブノメ、チョウジタデ、ヒメミソハギなどがよく見られる。
<多年生雑草>
1年のうちに一生を終える1年生雑草に対して、1年以上の生育期間を持つもの、または地上部分は1年以内に枯れても植物体の一部(塊茎、根茎、株)などが繁殖源として残るような草本雑草を多年生雑草と呼ぶ。一般に種子から発生する1年生雑草に比べて防除が困難であることが多い。
ホタルイ類
ホタルイ、イヌホタルイ等を総称してホタルイ類と呼ぶが最もよく見られるのがイヌホタルイである。イヌホタルイは株基部の越冬芽で栄養繁殖することができるため多年生雑草に分類されるが、実際の水田での発生を見ると種子からの発生が大部分であり「1年生雑草」ともいえる。代かき後数日のうちに発生し始め、長さ1~3
cmの細長い葉が4~6枚出た後に円柱型の花茎が1株あたり数本出て30~60cmに伸びる。田の深い部分にある種子は発芽せずに休眠することが多く、休眠種子は20年以上生存することがある。
ホタルイが繁茂するとイネの生育に必要な養分がかなり横取りされ収量に多大な影響を与えることがある。
ウリカワ
オモダカ科の小型多年生雑草である。繁殖力が旺盛で養分奪取力が強いためイネの強害雑草の一つである。株元から伸びた地下茎の先端が分株となって増殖する。秋には地下茎の先端にくちばし状の芽を持った直径2~6mmの塊茎(いも)を形成し、塊茎で越冬する。塊茎の分布深度は浅く、湿潤な環境を好むので冬期にに耕起して塊茎を地表にさらすと乾燥して枯死するものが多くなりウリカワの密度を減らすことが出来る。
ミズガヤツリ
カヤツリグサ科の大型多年生雑草。1m程度に成長することもある。種子でも増えるが主に塊茎で越冬する。もともと畦畔に多かった雑草であるがロータリー耕で塊茎が裁断され水田内に分布を拡げてしまった。塊茎は5~10cm程度の深さに分布している。
クログワイ
カヤツリグサ科の強害雑草で一度水田に進入するとなかなか防除できない難防除雑草の代表である。中国等で食用にされているクログワイは別種である。塊茎で越冬するが水田表層部から深部まで様々な深さに塊茎を形成し、かつ深度によって春の発芽時期がバラバラになりだらだらと長期間に渡って発芽してくるため、一発処理除草剤などのピンポイント防除ではなかなか密度を下げられない。直径2~3mmの濃緑色の中空円筒形の茎が30~90cmに成長するが、葉の先端が丸いことで先端が鋭くとがったイヌホタルイとは区別可能である。また葉内部には1~2cm間隔で竹の節のような隔壁があるのも特徴である。
<その他雑草>
藻類による表層剥離
府内の水田は用水の富栄養化や高気温等の原因から田植え直後からアオミドロ、アミミドロ、ウキクサ、ケイソウ類等の藻類が多発生し、表層剥離を起こすことが多い。除草剤散布作業の妨げになったり、苗を押し倒したりして害を及ぼす。対策としては専用除草剤(モゲトン)等の使用が有効だが、藻類は水中の窒素が多いと爆発的に増殖するため、基肥減肥や側条施肥田植機の利用で肥料を土中に埋め込み施用するなどで田面水中の浮遊窒素濃度を下げることが肝要である。
<雑草防除の方法>
化学的防除-除草剤を利用する方法と手抜き除草や除草器具の利用、アイガモやカブトエビなど生物除草、有機資材散布、紙マルチや色素による除草などいろいろな方法がある。
<水稲用除草剤>
終戦直後に実用化された2,4-D以来、水稲用除草剤はめざましい開発が行われ、新成分が低薬量で優れた効果を発揮するようになってきた。一時問題となった魚毒性等環境に与える影響も大幅に改善された。近年の除草剤は除草効果については一定の水準をクリアしており、今後はより省力化でき、環境への負荷が低く、難防除雑草への効果が高い剤の開発にシフトしていくと考えられる。
<除草剤使用時の注意事項>
各種水稲除草剤の使用については下記リンクの大阪府病害虫防除指針を参照のこと。
<病害虫防除>
<総合的防除の必要性>
水稲生産の低コスト化、作業従事者や近隣の健康確保、消費者の安全安心を求める声の対応して行くために、マニュアルや栽培暦に載っているからと安易に農薬を散布するのではなく、水田を常に注意深く見回り、病虫害の早期発見に努め、最低限の農薬で最高の効果が得られるように総合的防除を推進していく必要がある。
具体的な病害虫ごとの防除対策については下記リンクの大阪府病害虫防除指針を参照のこと。